2017年7月23日日曜日

水不足の時 - フランスと日本



関東地方は水不足ということで、天気予報を見ていて気が付いたことがある。
花にたっぷり水をやりましょう!と言っていたからだ。

もうかなり前のことになるが、フランス南西部で語学の研修を受けていたときのこと。
暑い夏で、眩いばかりの太陽の下、私たちは暇さえあると海に飛び込んでいた。

ある日私は、ホームステイ先の奥様に、ちょっと話があるんだけど、と言われた。
「実はこの地方は今水不足なんです。」

当時私は新聞が読めるほどフランス語ができなかったし、今のようにインターネットで情報が発信されている時代でもなく、不覚にも、彼女に言われるまで水不足について知らなかった。

私が風呂場でお湯を使いすぎる、というのが彼女の言いたいことだった。

私はあやまり、それからは水やお湯の使い方にとても気を付けるようになった。

その時彼女が言ったのは、それだけではない。

住人は庭に水をやるのも控え、洗車もしないということだった。

「飲み水がなくなったら困るし、農家の水が足りなくなったら大変でしょう?
車は埃だらけ、花や芝生も枯れてしまった。
でも、こんな時にきれいな車で走ったり、庭の花が生き生きしてるのは恥ずかしいこと。」

庭で花を作るのは趣味で、それが仕事の農家とは違う。
それに、水不足の上、作物が取れなくて食べ物が不足したり、値段が跳ね上がったら皆困る。

車はともかく、植物は生き物だ。
車は後で洗うこともできるが、一度死んでしまった木や草は生き返らないかもしれない。
植物が生きていれば虫も生き、それをついばむ鳥も生きる。
(殺虫剤を控えていればの話だが)

水不足で花が枯れたらかわいそうだと思う日本。
水不足だから自分の庭は犠牲にしなければと思うフランス。

どちらがいいのでもどちらが悪いのでもない。

おそらく、水不足の度合いも違うのかもしれない。
日本では、水不足といいながらも、庭に撒くぐらいの水はあるのかもしれない。
乾燥のために山火事が起こることさえある南仏と比べることはできないだろう。

それでも、水に対する危機感の違いが現れていると考えることもできる。

よく言われることだが、一般的に水が豊富な日本と、世界のそうでない地域とでは、水に関する感覚がずいぶんと違う。

とはいえ、今年は日本も九州北部で水田が干上がっているという。
深刻な事態となってしまった。
 
関東地方も、洗車ぐらいは控えた方がいいのかもしれない。
今年の夏、車は埃だらけがかっこいいということにしては。

2017年7月22日土曜日

ポピュリズムはなぜ批判されるのか


大衆に人気があることは悪いことではない。

全てのアートを全ての人が理解する必要はないけれど、政治は基本的に全ての人のためのものだ。
できるだけ多くの人に分かるよう説明するのは政治家の義務だろう。

ただ、複雑な問題を分かりやすく解き明かすのと、複雑な問題を単純化してしまうのは、全く別のことだ。
分かりやすくなったところで、問題の本質が変わってしまったら、説明したことにはならない。

政治的な意図をもってつく嘘をデマゴギーという。

アメリカのガーディアン紙によれば、アメリカの歴史の中では、ポピュリズム的な傾向がデマゴギーへとスライドしたことが多く、民主党も共和党もポピュリズムにウンザリしていたという。

そこに新たなポピュリスト、トランプが現れ、大統領となってしまったのだった。

ポピュリズムの特徴の一つは、本当に可能で、しかも実効のある政策を打ち出せない点にある。

問題を単純化して敵を作ると大衆は盛り上がるのだが、その先が無い。

もう一つの問題点は、常にマイノリティーが犠牲になるという点だ。
「私たち」の同質な集団が、「私たち」とは異なるものを排除しようとする。

そして、トランプ大統領がメディアと対立しているように、あらゆる社会的な制度や団体への不信感を掻き立てる。
軍隊と警察だけはなぜか別で、この二つだけはポピュリズムに祭り上げられる傾向にある。

このような傾向はポピュリズムが現われる度に見られたことで、だから識者はポピュリズムを警戒するというわけだ。

2017年7月15日土曜日

劉氏死去に思う

ノーベル平和賞受賞者にして、中国民主化運動のリーダーである劉氏が亡くなった。

彼は中国の大学で文学の博士号を取った後、ヨーロッパやアメリカの大学に客員教授として招かれた。

1989年、学生による民主化要求の波が高まった時も、コロンビア大学にいたそうだ。

もしあの時中国に帰らなかったら、彼は投獄されることはなかっただろう。
国外から発言を続け、平穏な人生を送ることもできたはず。

それでも彼は帰った。

天安門事件の後、仲間の多くは亡命して国外で活動を続けた。
それも大切なことだと思う。 

しかし彼は残った。

大人しく黙るためではなく、批判を続けるために。

批判を封じ込める所に民主主義はない。

そして民主主義は、一度手に入れたら二度と消えることのない当たり前のことなんかじゃない。

あたりまえのことなんて、何一つない。

今、私たちには発言する権利がある。
批判する自由もある。

批判とは創造的なものである。

CNNのインタビューに答え、彼の妻は次のように答えている。

「彼の20年に渡る闘いによって、中国社会は変わらなかった。
でも、彼の考え方に影響を受ける人は増えたし、権力を恐れない人も増えた。」

言論の自由だの三権分立だの、日本では一応法律で保障されている。
けれどそれで十分ではない。
それは当たり前のことではない。
形骸化させないよう、常に気をつけていなければならないのだろう。

中国の故事、荘王の話にある通り、本当に国を思う人は、権力がまずいことをしていると思えば批判する。
自分が可愛いだけの人はおもねる。
その権力が永遠に続くとでも思っているかのように。

CNNの記事はこちら
http://edition.cnn.com/2017/07/13/asia/china-liu-xiaobo/index.html

2017年7月10日月曜日

ヒアリ騒動に思うこと - 本当の対策とは

日本でヒアリに刺される可能性は何パーセントくらいなのか。
そのうち、死に至る可能性は何パーセントくらいなのか。

今のところは、高いとはいえない。

ヒアリ騒動が大げさだというつもりは全くない。
正しく怖がろうと思っているだけ。 

ちなみに、ヒアリが定着してしまっているアメリカでは、年間1000万人以上の人が刺されるという。
そのうち、アレルギーで死亡するのは約100人ということだ。

ヒアリの見分け方は、赤っぽいという色だけでは難しいと思う。
光の加減によっては、普通私たちが知っているアリもかなり赤く見えることがあるからだ。
分かりやすいのは、背中に小さなコブが二つあること。

お尻の前に小さい玉が二つあるのが見える。

疑わしいアリを見つけたら、できれば写真を撮って、環境省の地方環境事務所
http://www.env.go.jp/region/index.html
に連絡するようにと言われている。

熱湯をかけるとか、殺虫剤で駆除できるそうだ。

もし刺されてしまったら?

きっとスズメバチ対策に準じるのでは、 と思っていたら、実際、スズメバチとヒアリは、生物学的に近いとのこと。
というか、そもそもスズメバチとアリ一般が近いのだそうだ。

だとすれば、刺された直後、安静にすること。
アレルギー反応を起こさないために、抗ヒスタミン剤を取るのもいいのかな?

呼吸困難、意識の混乱などがあったら、一刻も早く救急車を呼んだ方がいいらしい。

ここで思うのは、ヒアリ騒動にパニクって、一般のアリまでも恐れてしまう人が出るかもしれない、ということ。

ヒアリは、在来種が栄えているところでは定着しにくいようだ。
ということは、私たちは今まで以上に身近なアリたちを大事にしなけれなならない。

ヒアリは蟻塚を作る。
在来種のアリの巣は、穴の周りに掘り出した土がこんもり盛り上がっている程度。

ただ、ヒアリも地下に深い巣を作ることもあるそうだ。
私たちは、これからいろいろ情報を集め、勉強しなければならないのだろう。

いずれにしても、ヒアリに限らず暑い国の危険生物が日本に増えているのは、温暖化の影響でもあるわけだ。
本当の対策とは、温暖化を食い止めることでもある。

この構図に似ている現象がある。

イスラム過激派を怖れて一般のイスラム教徒まで差別したり、北朝鮮の政府がやっていることに怒って、日本国内の韓国、朝鮮系の人々に八つ当たりするような態度。

それって、ヒアリを恐れて、私たちを助けてくれるはずの一般のアリを敵に回すことに似てないか。

何が私たちの社会の将来にとって良いことなのか、私たちは情報を集め、よおく考えなければならないのだろう。
 

2017年7月8日土曜日

ポピュリズムとは

最近よく耳にする言葉、ポピュリズム、ポピュリスト。

今に始まったものではありません。 
言葉の起源は古代ローマだと言われています。
ただ、古代の民主主義で使われた意味と現在使われている意味は、同じではないでしょう。

近代以降では、アメリカで1892年にPeople's party (Populistsという言い方方が有名です)というものができました。
彼らの主張は、メディアは偏っているとか、新たな移民が国をダメにしているとか、トランプ氏と似たようなものだったようです。

最近話題になったポピュリズムとしては、イギリスのEU離脱、アメリカのトランプ大統領当選、フランスの極右政党である国民戦線、日本の維新の会、そして小池都知事に率いられた都民ファーストの会などが挙げられます。

ポピュリストが自分で自分のことポピュリストだということはありません。
また、極右政党だけでもないのでわかりにくいところです。

 Daniele Albertazzi と Duncan McDonnell の定義はわりと明解で、ウィキにも紹介されています。
どういうことかというと、

ポピュリストは、まず対立構造を作る。
彼らによれば、一方には純粋なる良き市民がいる。
(この良き市民というものは、多様なものではなく同じような人々としてみなされる。)
もう一方には、敵として、エリート層や職業政治家、そして「私たち」とは異なる危険な「他者」たちがいる。
この敵たちが、主権者である良き民の権利や価値観、富やアイデンティティを奪っている、というのが彼らの主張。

なるほど、この定義なら、右も左も関係なくポピュリズムが現れるということがよくわかりますね。

東京都議選を伝える海外メディア - アメリカabc

アメリカabcニュースは6月30日付で、既に次のように伝えていました。

「ポピュリストの都知事、小池百合子氏が立ち上げた新党が大勝利して彼女の基盤を固め、次期首相候補になるとの予想も」

改革のイメージと、男社会だった都議会への対決姿勢が人気の理由と分析。

都議会の自民党とは喧嘩をしているが、安倍首相とは関係を保っていることを挙げ、国政への復活を視野に入れている、

独自の東京ファーストを広げてジャパン・ファーストとし、国政に打って出ることもあり得る、と。

記事は、最後にアジア学の権威、キングストン教授の言葉を紹介。

「今のところは人気があるが、今後下がる可能性もあり、首相候補となるかどうかを云々するのは時期尚早」

さて、ポピュリストとかポピュリズムという言葉。

英語の辞書を引くと、人民主義者とか人民党員と出ています。
このように訳される場合は、アメリカで19世紀の終わりから20世紀に現れた政治の動きのことですね。

今この言葉で表されるのは、日本なら維新の会、フランスならルペン氏の国民戦線、そしてアメリカのトランプ大統領。

既存の政治との対決姿勢を示し、あまり細かいことは論じない。
わかりやすい言葉で大衆に訴えるので、大衆迎合主義と訳すこともできます。

小池知事とトランプ大統領では、イメージは全く違います。
小池氏が環境保護に関心を見せ、トランプ氏は「地球温暖化はデマだ」と言っているのも対極的です。

しかし、国内の外国籍の人々に対する抑圧など、よく見ると似ている点も多々あります。

abcニュース原文
http://abcnews.go.com/International/wireStory/tokyo-election-populist-leader-shift-japan-politics-48366559


2017年7月5日水曜日

内閣府とは ー 宇宙からアル中まで

ナイカクふ。
最近よくニュースで聞く言葉。

何をやってるところなのか、今一つわかりにくい。

それもそのはず、内部では
「宇宙からアル中(アルコール依存症)まで」
何でもやらされるとの声も。

内閣府がいつから日本にあるかというと、比較的最近のこと。
2001年に中央省庁再編に伴って、かつての総理府に代わって設立された。
総理大臣が直接手を染めることによって、縦割り行政を改め、総理大臣のリーダーシップを強める利点があるとのこと。

かつての総理府と今の内閣府の共通点は、元号や栄典(賞の授与など)の他、総理が直接管轄すべきと判断された事柄を担当する点。

と聞くと、一体誰が、総理が直接管轄すべきと判断するのか、という疑問が湧く。

その疑問は取り敢えず大切に取っておくとして、総理府当時の例を挙げると、阪神淡路復興対策本部があった。

これは、急ぐからという理由で理解しやすい。

その他に、行政改革本部や国際平和協力本部が設置された。

総理府、内閣府のもう一つの役割は、様々な省庁に関わる事柄について、省庁間の調整をはかること。
例えば、男女共同参画社会の促進がそれに当たる。

総理府と内閣府の違いは、担当範囲が桁違いに増えたことである。

特命担当大臣という内閣府の大臣は、発足当時6人置かれた。
(イギリスの内閣府の大臣が6人なので、これを参考にしたのかもしれない。)
今では9人に増えている。

審議会の数も半端ではない。
宇宙政策委員会民間資金等活用事業推進委員会、日本医療研究開発機構審議会、食品安全委員会、子ども・子育て会議、公文書管理委員会、障害者政策委員会、原子力委員会、地方制度調査会、選挙制度審議会、衆議院議員選挙区画定審議会、国会等移転審議会、公益認定等委員会、再就職等監視委員会、消費者委員会、沖縄振興審議会、規制改革推進会議

さらに施設等機関として、
経済社会総合研究所、迎賓館。

さらにさらに、特別の機関として、
地方創生推進事務局、知的財産戦略推進事務局、宇宙開発戦略推進事務局、北方対策本部、子ども・子育て本部、金融危機対応会議、民間資金等活用事業推進会議、子ども・若者育成支援推進本部、少子化社会対策会議、高齢社会対策会議、中央交通安全対策会議、犯罪被害者等施策推進会議、子どもの貧困対策会議、消費者政策会議、国際平和協力本部、日本学術会議、官民人材交流センター、原子力立地会議

このすべてを、安倍晋三氏が直轄する、それがナイカクふ。

これが会社だったら、社長がなんにでも口を出し、人事にも圧力をかけるということか。

会社の場合、規模や時期、人物によっては、ワンマンでうまく行くこともあるだろう。
しかし、弊害の方が多いし、腐らずに長く続くものではない。
ましてや国となれば、どんな大企業よりも大きいし、ずっと複雑である。
問題が起きない方が不思議かもしれない。

2017年7月1日土曜日

東京都知事、海外の反応

小池百合子氏が都知事になった時の海外の反応を振り返ってみました。

まずフランス、ルモンド紙。 

 「アラビア語は喋るが極めて国粋的な新都知事、「大改革」をもたらしたいと語る」

外国語が話せれば国際派、ではないというわけか。

次いで、ジャパンタイムズは選挙戦を分析し、

「 小池氏は巧妙に、自分が「一人で闘っている」ことを強調した。たとえ火あぶりになっても進み続けると誓い、15世紀のフランスのヒロイン、ジャンヌダルクに自らをなぞらえることさえした。
このアプローチは明らかに彼女に有利に働いたようだ。」

ジャパンタイムズとニューヨークタイムズは、ご存知のように緊密な関係にあります。

ジャンヌダルクといえば、安倍首相も当初、稲田朋美氏をジャンヌダルクにたとえていました。
フランスの新聞は、「ジョークですらなくジャンヌダルクを持ち出し」と書いていました。
顔を赤くするのは私一人でしょうか。

ニューヨークタイムズは、

「日本のガラスの天井を破るもフェミニストの中には懐疑的な意見も」

と述べ、小池氏の支持母体がきわめて保守的な団体であることを挙げています。
女は家にいるべきという主張とどう折り合うのか?
この記事で紹介されている二人のフェミニストのうち、一人は、
政治的立場には賛成できないが、彼女のような女性が日本にいると世界に知ってもらうことに意義があると語っています。
もう一人は、小池氏は排他的すぎる、単に女だからという理由だけで投票することはできないと言っています。

アメリカでグーグルニュースなどにも取り上げられるウェブブログ、メタフィルターには、

「彼女は強硬な国粋主義者。
自分をサッチャーやヒラリー・クリントンと比べるのが好きだけど、クリントンと似ているところなんて一つもない。
 彼女は移民が日本にいるのが嫌なんだ。」

マイノリティーに人気のあるヒラリー・クリントンとは大違い、サッチャーだって差別的言動をしたりはしなかった、と手厳しい。

どんなに緑のお洋服を着たところで、
タカ派であることは隠せない。
その点で小池百合子氏は、ヘイトスピーチを言論の自由だとか言っていた前任の舛添氏や安倍首相と何ら変わるところがないということでしょう。
あの時は、欧米に怒られてからやっと取り締まりに乗り出したものでした。 

今のところ東京は課題山積で、タカ派の面を発揮しているヒマはないようです。
しかし、彼女の過去を見ると、人を裏切ってまで勝ち馬に乗る傾向があります。
常に自分にとって何が得かで動いている。
ということは、タカ派的な面を出すことが自分が生き延びる道だとなれば、ためらわずそうするでしょう。

ルモンド紙原文
  http://www.lemonde.fr/asie-pacifique/article/2016/08/01/la-conservatrice-yuriko-koike-premiere-femme-a-diriger-tokyo_4976840_3216.html#LMWhLBdkSOcoJjrC.99
ジャパンタイムズ原文
 http://www.japantimes.co.jp/news/2016/08/01/national/politics-diplomacy/tokyo-elects-former-environment-minister-yuriko-koike-as-citys-first-female-governor/#.WVWvWstKOhA
ニューヨークタイムズ原文
 https://www.nytimes.com/2016/10/01/world/asia/yuriko-koike-tokyo-governor.html
メタフィルター原文
 http://www.metafilter.com/161342/Traitor-Too-much-make-up-Dressed-as-a-woman-but-a-hawkish-man