2014年9月25日木曜日

殿敷 侃(とのしき ただし)のショック

「こんなアーティストが、日本にいたのですね。」 横浜のトリエンナーレに彼の遺作が展示されているそうで、これを機会に、殿敷を発見し、再発見する人も増えるでしょう。インスタレーションやアッサンブラージュによる表現が多い作家でした。形に残る大作としては唯一のものかもしれません。 広島出身。3歳のとき、二次被爆したそうです。 作品は、1987年に山陰の浜辺で行われたプロジェクト「ゴミ拾いをアートする」から生まれました。100人以上の賛同者と一緒にゴミを拾い集めたそうで、当時の写真を見ると、子供たちも大勢参加していたのがわかります。殿敷は、周囲の「普通の人々」をも自然に巻き込んでしまう才能があったのでしょう。 集められた漂流ゴミは、6時間かけて焼き固められました。総重量2トン。熱によって変形し、焼きただれたペットボトル、缶、黒々と溶けたプラスチック‥ そのタイトルは、『お好み焼き』。 圧倒的な存在感を突きつけるこのオブジェを見て、何を感じるか、何を考えるか。それは、見る者それぞれに開かれています。ただ、何も感じない、何も考えないのは、不可能かもしれません。 とまどい、目を反らし、見つめ直し、惹き付けられ、眺め回したあとで、我に返ったとき、当たり前だった世界が、前と違って見え始める‥そんな力を、この作品は持っているようです。 生前、ある展覧会に作品を出品するにあたって、関係者に「素材という欄がありますが、何て書きましょうか?」と聞かれた彼は、「『社会』としておいてください」と答えたそうです。 小林清人氏は、今年の7月19日に発表された西日本版読売新聞の記事の中で、殿敷作品を見るという経験について、「『異物性』とは、現に存在するものに対するあからさまな抵抗の身振りが醸し出すものであって、それが既存の言語によって飼いならされたりすることから彼の作品を守っている。反原発やエコロジーといった個別の主題につなげて殿敷の仕事を解釈するあらゆる試みは短絡のそしりを免れない。」と書いています。

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