2017年10月15日日曜日

ノーベル文学賞と村上春樹



ノーベル賞の季節が近づくと、毎年のように「今年は村上春樹が受賞するだろうか」ということが話題になる。

自分が好きな作家が世界最高の栄誉を受けたら嬉しい、という気持ちはもちろん多くの人が持っているだろう。

でも、それがそんなに大切なことなのだろうか。

ファンの評価はおそらく、ノーベル賞を受けようが受けまいが変わらないだろう。
ファンではない人で権威主義的な人なら、ノーベル賞を取ったということで評価を変える人もいるだろう。
村上春樹の文学を認めない人の中には、ノーベル賞を取ったからといって評価を変えない人も大勢いるだろう。

村上春樹の作品は、すでに多くの言語に翻訳され、世界中にファンがいる。

ノーベル文学賞を取ったから作品の質が上がるわけでもないし、取らないから下がるわけでもない。

過去の作家たちを振り返ってみれば、すばらしい作家でもノーベル賞を取らなかった人たちが多いことに気づくだろう。

トルーマン・カポーティもマルグリット・デュラスも取っていない。
なんと、ジェームズ・ジョイスも取っていない!
(最もジョイスの場合は、もう少し長生きすれば取っていただろうと思われる。
ノーベル賞は亡くなった人には授与されないから。)

一方、後から考えると「なんでこの人が取ったんだろう?」と思う作家もいる。

アメリカ人の友人で大変な読書家がいるが、彼は自国の劇作家、ユージン・オニールがなぜノーベル賞を取ったかわからないと言っていた。
「そりゃもちろん、いい作家だよ。でも、ノーベル賞かなぁ・・・」

2014年にフランスのパトリック・モディアノが受賞した時も、多くのフランス人の反応は
「えー、本当?!モディアノが!?」
というもので、
「フランス人が取って嬉しい。」
という人はいなかった。
まぁ、どこかにいたにはちがいないが、大方の反応ではなかった。

驚いた人々の全てがモディアノを評価していなかったというわけではない。
ノーベル賞を取るタイプの作家だとは思っていなかったということだろう。
モディアノにも熱烈なファンがいる。
この点で村上春樹に劣るわけではない。

ちなみに、モディアノはノーベル賞以前にフランスの芥川賞とも言うべきゴンクール賞を受賞しているが、ゴンクール賞とノーベル賞を共に受賞した最初の作家となった。

日本でも有名なアルベール・カミュはノーベル賞は受賞しているが、ゴンクール賞は受賞していない。

つまり、ゴンクール賞の基準とノーベル賞の基準は違うのだ。

ノーベル賞の審査が、好みとか気分で決められるはずはない。
ノーベル文学賞にはノーベル文学賞の、しっかりとした基準があるにちがいない。
そしてその基準は、昨年ボブ・ディランを選んで世間を驚かせた時も、しっかりと働いていたと思われる。

それはどんな基準だろう。

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